カイコはヒトに病気を起こす細菌や真菌により感染死します。このカイコの感染死に対して抗生物質は治療効果を示します。
注目するべき点は、カイコで得られる様々な抗生物質の一定体重当たりの治療有効量(ED50と呼ばれます)が、マウスなどの哺乳動物で得られる値とよく一致していることです。
この点を利用して、マウスなどの哺乳動物を使わずに、カイコを用いて治療評価を示す新規抗菌薬の探索を行うことができます。
私たちはこの方法を用いて、ライソシンE以外にも治療効果のある抗菌薬や抗真菌薬を発見しています。
カイコのような無脊椎動物には抗体を介した獲得免疫系がありません。カイコは自然免疫系だけによって感染防御を果たしています。
最近の研究から、自然免疫はヒトにおいても重要な役割を果たしていることが明らかとなっています。カイコの自然免疫を促進する食材は、ヒトにおいても有効であると考えられます。
哺乳動物の場合、自然免疫が促進されたか否かを外観から評価することは容易ではありません。しかしながら、カイコの場合は、自然免疫活性化を目で判定することが可能です。
カイコには麻痺ペプチドと呼ばれるサイトカインがあります。これが自然免疫受容体を活性化すると筋収縮が起こり、外から目で見て容易に判定ができます。
私たちはカイコの筋肉収縮標本を作成して、自然免疫活性化を定量する方法を確立しました。この系を利用して、乳酸菌の自然免疫促進活性を定量することに成功しました。
この方法で活性が高い乳酸菌を天然から分離し、食品メーカーと共同でヨーグルトなどの製品を商品化しています。さらにこの方法は乳酸菌に限らず、様々な食品中の自然免疫活性化物質を評価することを可能にします。
カイコが糖尿病になると聞いて驚かれる方も多いと思います。
養蚕業の歴史の中で、お菓子を食べたカイコはいないようです。
カイコの餌にグルコースを混ぜるとカイコの血糖値が直ぐに上昇し、さらに時間が経つと元のレベルに戻ります。
ヒトと同様の血糖値負荷試験がカイコを用いて可能です。
血中のグルコース濃度が高くなると、カイコは成長できなくなります。
ヒトと同じように血中の糖はカイコに対しても毒なのです。
この血糖値が高くなったカイコに対して、人の糖尿病治療に使われるインスリンが治療効果を示します。即ち、カイコの血糖値調節機構はヒトと共通しているのです。これを利用したカイコでの糖尿病治療薬の評価が可能です。
私たちは、カイコは糖尿病以外のあらゆる生活習慣病のモデル動物として使えると考えています。
薬物の体内動態は、ADME(吸収、分布、代謝、および排泄)と呼ばれる要素により決定されます。私たちは、ADMEがカイコとヒトを含む哺乳動物の間で共通していることを明らかにしてきました。そして、カイコでの外来薬物の代謝の場は腸であることを示し、論文として報告しています。即ち、腸に肝臓の機能があるのです。
カイコでは門脈と肝臓は腸菅から分離されておらず、外来薬物の初回通過効果は腸においてなされるのです。このことを理解すれば、カイコにおける薬物の体内動態が哺乳動物と共通していることを納得して頂けるはずです。
薬物の体内動態がカイコと哺乳動物で共通しているため、化合物の毒性の指標であるLD50は両者で共通しています。そのため、カイコは様々な化合物の毒性を評価するための実験動物として利用することができます。
近年、動物愛護の観点から哺乳動物を毒性試験に用いることに対して制限がかけられるようになっています。それが医薬品や化粧品、更には食品の新規開発のブレーキとなっています。カイコを用いればこの問題を克服できるはずだと私たちは考えています。
わたしたちはカイコをテスターとして採用し、様々な病態モデルの確立を行っています。
創薬の研究や感染症治療の新たな道筋として、最適なご提案をさせていただきます。