ライソシンEは2011年に当社顧問である東京大学薬学部関水和久教授(当時。現・帝京大学薬学部寄付講座特任教授)および東京大学薬学部濱本洋博士(当時。現・山形大学医学部教授)を中心とした研究グループにより発見された全く新しい作用機序を有する抗生物質です。
驚異的な殺菌能力と新しい作用メカニズムを有するライソシンEは、現在、世界中の人々の生命を脅かそうとしている薬剤耐性(AMR=Antimicrobial Resistance、多剤耐性とも呼ばれます)菌に対し顕著な薬効を示す次世代の抗菌薬として、人類の未来に欠かせない画期的な医薬品になることを確信しています。
ここではライソシンEの紹介と発見の経緯、そして開発状況をお伝えします。
ライソシンEの主な対象疾患は難治性メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症です。
難治性MRSA感染症とは、既存の抗菌薬が効かない、または薬効が不十分な薬剤耐性黄色ブドウ球菌による感染症です。
抗生物質(ペニシリン)の発見により、人類の寿命は10年以上延びたとされる一方で、抗生物質の効かない耐性菌の出現で、今も多くの命が奪われています。
このAMR問題に適切な対応がなされないと、2050年には耐性菌による年間の死者が世界で1,000万人に達するとの予測も出ています。
MRSA感染症だけをみても、これによる我が国での院内感染数(2021~2024年)は年間平均16,288人(厚生労働省院内感染対策サーベイランス調査)に達しています。
また特に重篤な疾患とされるMRSA菌血症により、2011年からの7年間で約33,000人が日本国内で死亡しているとの報告もあります。
基礎疾患のある患者さんのMRSA感染症は各種の抗菌薬に抵抗性を示し、重症化、或いは死に至る事例も少なくなく、MRSAに対する新たな抗菌薬の開発は、私たち人類にとって解決すべき喫緊の課題となっています。
私たちの発見したライソシンEの特筆すべき特徴は2つあります。
そのひとつが殺菌能力の驚異的な即効性です。
ライソシンEは結核菌を含むいくつかのグラム陽性菌に効果があるだけでなく、従来の抗菌薬が数時間かけて殺菌、または静菌(菌の増殖抑制)するのに対し、ライソシンEはわずか数十分で菌を死滅させます(図1)。
図1
MRSAに対するライソシンEおよび従来の抗菌薬(バンコマイシン、ダプトマイシン、ゲンタマイシン)の
In vitro殺菌活性(Hamamoto H, et al, Nat. Chem. Biol.(2015))
ライソシンEのもうひとつの特徴は、従来の抗菌薬にはない新しい作用機序です。
ライソシンEは黄色ブドウ球菌などグラム陽性細菌の細胞膜に存在するメナキノン(脂溶性物質)をターゲットとし、メナキノンとの相互作用から膜障害を惹起して殺菌します(図2)。
新規作用機序であることから、既存薬との交差耐性(新薬でも、構造や作用機序が類似する既存の抗菌薬の耐性菌には薬効が低下する現象)が起きないという利点があります。
図2
ライソシンEの抗菌作用機序(Hamamoto et al, Nature Communications(2021))
ライソシンEの研究は現在も継続されています。
未発表ではありますが、MRSAによるマウス全身感染モデルにおいて、ライソシンEは既存薬より優れた治療効果を示しています。
論文で公表されましたらここでも紹介させていただきます。
従来の抗菌薬にはない作用機序、従来の抗菌薬にはない殺菌スピードで強力な殺菌活性を有するライソシンEは、難治性のMRSA感染症に苦しむ患者さんの特効薬になることは間違いありません。
ライソシンEは私たちが開発したカイコを用いる独自のスクリーニング法により、日本各地から集めた土壌の中から見出されました。
まずカイコを用いるスクリーニング法について説明させていただきます。
カイコは見た目ではヒトと大きく異なりますが、ヒトが感染症等に罹患した際、治療に用いる薬剤の体内での変化、動き(体内動態といいます)がカイコのそれと驚くほど似通っているのです。
一方、養蚕業で古くから人間と共にあるカイコは飼育方法も確立し、小型で大量に個体数を揃えることが可能であることから、ヒトに治療効果のある新規物質を探索する実験動物として大変適していると私たちは考えています。
カイコを実験動物として用いることの利点についてはこのWebサイトのトップページでも紹介しております。
図3
カイコを用いた治療効果のある新規抗菌薬のスクリーニング方法
従来、精製された新規物質はまずマウスなどの小型哺乳動物で試験を行いますが、マウス実験の前段階に、取り扱いが容易で大量サンプルの検証に適したカイコでの試験を挟むことにより、試験の犠牲になる哺乳動物の数を減らせるだけでなく(動物愛護への配慮)、実験期間も大幅に短縮できる利点があります(図3)。
前述の通り、カイコは大量に用意することが可能なため大規模なスクリーニングに適しています。
そのため、試験管内での抗菌活性試験で得られた大量のポジティブサンプルの治療効果も、カイコでなら簡便且つ迅速に検証することができます。
この段階で治療効果を検証することで、手間のかかる精製・構造決定の作業にかけるサンプル数を減らすことができます(コスト削減(従来法の1/100)と試験期間の短縮化(同1/10))。
また、抗生物質のED50(薬効の強さを示す指標)はカイコとマウスでほぼ一致していることが確認されているので、マウスの試験まで進むサンプル(カイコで治療効果があり、構造決定の結果、新規物質であると同定されたサンプル)はほとんどの場合マウスでも同じ治療効果が認められます。
この方法を用いてライソシンEは発見されました。
日本各地から収集した土壌細菌を培養し、試験管内での抗菌活性測定およびカイコでの治療効果検証を行うスクリーニングの結果、新規化学構造をもつライソシンEが見出されたのです(図4)。
従来法と比較して効率良く新規の治療効果物質を発見できるこの系を用いて、今後も人類の健康維持に資する新たな抗菌薬の発見にチャレンジしてまいります。

ライソシンE
図4
カイコ感染モデルを用いた治療効果を指標に見いだされたライソシンE(Hamamoto H, et al, Nat. Chem. Biol. (2015))
3-1 ライソシンEの実用化計画
新規抗生物質として発見したライソシンEは世界的に権威のある科学誌『Nature Chemical Biology』等に論文が掲載され、世界中の研究者から注目を浴びました。
現在、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(Japan Agency for Medical Research and Development(AMED))様の助成を受けて実用化に向け開発中です。
表1 ライソシンEの実用化計画
| 実施年度 | 試験項目 | 状況 |
|---|---|---|
| 〜2021 | 物性試験 | 実施済 |
| 生産法の確立 | ||
| 製剤化検討 | ||
| 薬理試験 | ||
| 作用機序解明 | ||
| non-GLP安全性試験 | ||
| 予備薬物動態試験 | ||
| 2022 | 薬効薬理評価 | |
| PK-PD解析 | ||
| GLP適用試験の媒体処方検討 | ||
| 抗菌活性測定法の標準化 | ||
| 2023〜2025 | GLP試験用原薬製造 | |
| GLP適用安全性試験 | ||
| 2026〜2027 | GLP適用安全性試験 | 実施中 |
| 2027〜 | 治験用原薬製造 | 計画中 |
| 治験用製剤製造 | ||
| 第Ⅰ相臨床試験(単回) | ||
| 第Ⅰ相臨床試験(反復) | ||
| 第Ⅱ/Ⅲ相臨床試験 |
3-2 ライソシンEの開発体制
ライソシンEの研究開発をステップアップさせるため、2022年にクラウドファンディングによるご寄付を募ったところ、お陰様で当社の新薬開発に全国の方々から多くの賛同を得て、目標額を大幅に超えるご支援をいただきました。
この温かいご支援で、開発チームに抗菌薬開発に経験の深いスペシャリストを複数名招聘することができ、これを契機に一気に開発が進むことになりました(図5)。
その後も、内外の大手製薬会社や研究機関で第一線に立って医薬品の研究開発に活躍してこられた一流のプロフェッショナル人材をお迎えして、着実に開発を進めております。
図5
ライソシンEの開発をプロジェクトとしたクラウドファンディング
3-3
ライソシンEを医薬品として一日も早く患者様の元にお届けするために
これまでライソシンEの研究開発は当社が主体でしたが、現在兄弟会社のシルクストランドファーマ社と共に進めています。
将来的にはシルクストランドファーマ社がAMED様からの支援だけでなく、ベンチャーキャピタル(VC)や製薬会社からの支援も受け開発を加速させる予定です。
なお、ライソシンEに関する知的財産(特許)は当社および東京大学と帝京大学が保有し、私たちの研究のバックグラウンドとなっております(図6)
図6
ライソシンEの開発体制(一部これから実施するものも含まれます)
画期的な作用機序により強力な殺菌活性を有し、薬剤耐性菌と戦う新規抗菌薬「ライソシンE」を一日も早く患者様の元にお届けするべく、私たちはチーム一丸となって引き続き開発を加速してまいります。
わたしたちはカイコをテスターとして採用し、様々な病態モデルの確立を行っています。
創薬の研究や感染症治療の新たな道筋として、最適なご提案をさせていただきます。